【エッセイ】1900円で冬が一気に暖かくなった話(2900文字)

2025/12/06

エッセイ・感想

t f B! P L
 


 冬はA社製の、吸湿発熱素材のインナーを着て過ごしている。

 このA社のインナーを買ってから、13年が経つ。
 吸湿発熱素材の効果は3年で薄れるとのことだったが、穴が空いたわけでもない。
 ケチな私は「まだ着れる」と、このインナーを着用し続けた。

 確かに年々、吸湿発熱素材の効果は薄れてきているように感じる。
 それに単純に、洗濯を繰り返すことで生地が薄くなってきたようにも思う。

 購入してから10年が経った頃には「さすがに買い替えようかな」と少し考えた。でもやっぱり穴は空いていないし、捨てるのはもったいない。

 3年ほど前から私は「買い替えようかな」と冬になるたび迷っていた。でも結局は「まだ着れるし」と、新しいインナーを買うことはなかった。
 


 今年の10月。衣替えの季節になり、私は衣装ケースに片付けられた5枚のA社製インナーを見て「今年はどうしようかな」と独りごちた。

 買い替えるべきか、今年もこのインナーで過ごすべきか。

 私はこの数年の冬、どうやって過ごしていたか思い出した。
 なんだかあまり暖かく、快適に過ごしていたような記憶がない。

 それなら、今年は思い切って買い替えようかな?

 私はAmazonで冬物のインナーを検索した。どうせ買い替えるのなら性能の良いものが欲しい。しかしメーカー品で性能が良さそうなものは、A社製のインナーの倍の値段はする。ホイッとは買えない金額だ。

 私はとある持病を抱えており、体を冷やすと症状が悪化する傾向がある。

 だから本当は、持病のためにも暖かいインナーを用意したほうがいい。
 それは分かっている。分かっているけど、A社製のインナーはまだ着られるし、物価高の昨今、できるだけ節約したい。

 とは言っても体調を崩して医療費がかかったら節約の意味がないし、持病のためにも思い切って買い替えたほうがいいのだろうか。

 迷ったが、やっぱり私はケチだった。「A社のインナーは破れたわけでもない。捨てるなんてもったいない」と、この冬も手持ちのインナーを着用しようと決めたのだった。





 13年目のA社製インナーを着て、11月を過ごす。インナーはあまり暖かくないように感じたが、私は「まあ、こんなものだろう」と日々を送った。

 そんな時、最低気温が前日と比べて急に6℃も下がった日が来て、私は体調を崩した。
 これは良くないと思い、ネットで対策を調べる。寒くても外を30分以上歩いて体を寒さに慣らすのが、私の持病に有効という情報を得た。

 冬は寒くて家に閉じこもっていることがほとんどだ。
 しかし体を寒さに慣らすため、持病の悪化を防ぐためにも、歩いてみようか。

 そう思った私はネットで、冬のウォーキングの服装について調べた。「インナーは寒さと汗冷えを防ぐため、保温性と速乾性に優れたスポーツインナーを」とあった。

 スポーツインナーなど持っていない。そういうものは多分、スポーツ用品メーカーのお高いものしか売られていないだろう。

 安く買える店はないかと考え、ワークマンの存在を思い出す。高機能の製品をリーズナブルな価格で販売しているあの店なら、良いスポーツインナーがあるのでは?

 ワークマンのアプリを見る。相場では5000円以上はするメリノウール100%のインナーが、1900円という破格の値段で販売されている。A社のインナーとほぼ同価格である。

「メリノウール100%が1900円!?」驚きながらレビューを読むと「登山で着用。暖かいし汗冷えもしない」という声が多数あった。

 冬の登山での使用で満足できるような商品だったら、ウォーキングには充分過ぎるほどの性能だろう。
 
 メリノウール100%のインナーがこの値段なのである。試しに買ってみようか。
 本来5000円もするような商品が1900円で買えるのなら、かなりのお買い得である。

 よし、買ってみよう。私は決意した。

 私は夫に頼んで車で近くのワークマンまで連れて行ってもらい、メリノウールのインナーを購入した。ワークマンの商品は売り切れるのが早いので、念のため複数枚、買って帰った。お買い得商品を手に入れられるかも知れないという思いが、普段のケチ根性を吹き飛ばした。

 メリノウールのインナーを買ってから4日後、更に気温は下がり、最高気温が11℃の日を迎えた。メリノウールを試す時が来た。
 私は13年目のインナーからメリノウールのインナーに着替え、ウォーキングに出かけた。

 外に出てすぐ、「13年目のインナーを着ていた時よりも遥かに暖かいぞ」と感じる。少し歩くと上半身がポカポカしてきた。くたびれたA社のインナーとは比べ物にならない暖かさだ。

 20分も歩くと暖かいを通り越して暑くなり、30分のウォーキングを終えて帰宅した頃には私はすっかり汗をかいていた。

「暖かい」私はつぶやいた。「暖かい。かなり暖かい。凄いな」

 では、汗冷えのほうはどうか? 汗を吸った生地は、汗が冷えて体を冷やす前に乾くのか?

 実験のため、私はわざと汗を拭かずに濡れたメリノウールを着たまま過ごした。

 するとどうだろう。わずか10分ほどでメリノウールのインナーはすっかり乾き、生地も肌もサラサラになったではないか。メリノウールは汗を吸っている時も乾いたあとも、暖かく私の上半身を保温してくれていた。

「凄い!」私は驚愕した。「ほんとに汗冷えしない! しかも凄く暖かい! これが1900円!? A社のインナーと同じ値段!? ほんとに!?」

 びっくりした私はその日の昼、勤務中の夫とLINEの通話で「これを1900円で売るワークマンはやばいな」と報告。2人で盛り上がった。

 その後、未開封のメリノウールインナーのパッケージに「睡眠時にもおすすめ」と印字されているのに気づく。
 試しにその夜、メリノウールを着て就寝してみる。暖かいのに暑すぎて夜中に目が覚めるということもなく、朝までぐっすりと眠ることができた。メリノウールには体温をちょうどよく調節する機能もあるらしい。

「凄く快適だ。普段の肌着もワークマンのメリノウールにしよう」翌朝、私は決断した。「13年目の吸湿発熱素材を使っている場合ではない。同じ値段でこんなに快適なインナーを買えるのだから、買い替えよう」

 こうして私は我が家の洗濯サイクルに合うように、5枚のメリノウールインナーをワークマンで買い揃えたのだった。




 以来、私は寒さに凍えたり、汗冷えすることなく冬の日々を送っている。
 このエッセイを書いている今もメリノウールのインナーを着ているが、室温が17℃なのにポカポカと暖かい。

 A社の吸湿発熱素材の効果が薄れてから、10年近くもあまり暖かくないインナーで過ごしていたのはなんだったのか。馬鹿らしくなるぐらい快適である。持病の方も調子が良い。

 節約も大事だが、投資するべきところにはケチらず投資すべきなのである。
 それに、探せばお手頃価格の高品質な商品は存在する。

 低価格で高機能な商品を提供し続けるワークマンの企業努力に感謝しつつ、私は今日もメリノウールのインナーを着て、暖かく元気に過ごしている。

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