【エッセイ】蜂VSバズーカ主婦(2200文字)

2025/11/27

エッセイ・感想

t f B! P L
 


 11月のある日、庭のアコーディオンゲートを開けに行った時のこと。ゲートの周りを蜂が複数匹うろついているのを目撃した。

 今までの人生で「自宅に蜂がやってくる」という経験をしたことのない私は、酷く怯えた。

 蜂はゲートのそばから離れようしない。

 夫に駆除してもらいたいが、夫は仕事中である。夫が帰宅するのは辺りが真っ暗になる頃だ。暗いなか蜂を駆除するのは難しいだろう。

 蜂を駆除できないまま、翌日を迎える。蜂はまだゲートの周りをウロウロしている。

 まだいる! 怖い!

 私は怯えに怯えたが、この日も夫は仕事で帰りは遅い。

 自分で駆除しようかとも考えたが、元々臆病な上に大の虫嫌いの私には、とてもじゃないが「蜂の駆除」なんて恐ろしい所業はできなかった。



 蜂がゲートに現れてから3日目。蜂は姿を消した。
 蜂がやってきたのはたまたまだったのかなと考えていると、夫がゲートにコバエよけスプレーを噴射した。
「これで大丈夫だろう。コバエよけでも充分効果あるはず」

 本当に大丈夫だろうか。今は一時的に留守にしているだけで、そのうちまた蜂がやってくるのでは。
 私は変わらずビクビクと蜂に怯える日々を送った。

 私の予感は当たった。
 蜂が最初に出現してから5日目の午前、夫と車で出かけて帰宅した時、蜂は再び現れたのだった。

 夫は「ハエたたきを持ってきて」と怒りに満ちた表情で言った。言われた通りにハエたたきを屋内から持ち出して、夫に渡す。
 夫が何をしようとしているかは火を見るより明らかだ。私は蜂が怖いので、屋内でそわそわと事が終わるのを待った。

 やがて夫が「こっちに来て」と私を呼ぶ。「全部で5匹いた」
 鉢の死骸がゲートの下に転がっている。私は安堵した。

 これでもう大丈夫だろう。
 私は安心し、蜂に脅かされることのない生活に戻った。




 しかし、夫が蜂を駆除してから2日後の午前。また蜂が複数匹、ゲートの周りに現れた。

 私は「我が家に蜂がすっかり居着いてしまったのでは」と恐怖で気が遠くなった。

 また夫に駆除してもらう? でも今日は月曜日だし、夫の仕事が終わるのは夜だから、仕事がある日は駆除は頼めない。
 夫の次の休みは土曜。夫が駆除できる頃まで、だいぶ日にちが空く。それまで、蜂に怯える日々を送らないといけないのか?

 ここで私は「自分で駆除する」という考えが浮かんだ。
 自分で駆除する……怖い。とても怖い。でも、このままにしておくのも、それはそれで怖い。巣を作られでもしたらたまったものではない。

 私が悩んでいると、昼休み中の夫からLINEの音声通話の着信が来た。
 夫に「また蜂が出た」と相談する。どうしたものかとあれこれ話しているうちに、自然と「ドラストで蜂スプレーを買ってきて、私が駆除しようかなぁ」という言葉が口から出ていた。

 通話後、己が発した「私が駆除する」という言葉で頭がいっぱいになる。
 私が駆除する。私が駆除する。…………。

 ……やるか……?

 夫のように、器用にハエたたきで駆除できる自信はない。やるなら、蜂専用の殺虫剤を使うのがいいだろう。

 私はスマホで「蜂 駆除 服装」と検索した。手持ちの服でどうにかなりそうだ。

 ……やるか……。

 私は意を決し、近所のドラストまで蜂スプレーを買いに行った。有名メーカーの蜂専用殺虫スプレーを1本購入し、帰宅する。

 蜂スプレーの注意書きを読む。1度使用したら使い切るまで噴射しないといけないらしい。バズーカタイプのこの商品は、蜂の巣をまるごと壊すのに使うような、超強力なスプレーのようだった。

 蜂を数匹やっつけるのに使うにはちょっとオーバースペックかもとは思ったが、ここまで来たらやるしかない。

 検索結果に出た服装となるべく近い格好に着替える。スウェットにデニム、レインコートを着、首にタオルを巻いてキャップを被り、レインコートのフードをキャップの上から被せる。ゴーグルは元々かけているメガネで代用。
 これに手袋をはめ、ブーツを履く。11月と言えども気温15℃まで達したこの日にこの格好は少々暑かった。だがこれも蜂を退治するためである。

 さあ、いざ!
 私は鼻息荒く庭に出た。ゲートの上を蜂が1匹、フラフラと飛び回っている。

 えっ、1匹しかいない?
 私は面食らった。ゲートを端から端までよく見渡す。他の場所も確認する。やはり1匹しかいない。

 蜂1匹に対してバズーカタイプの殺虫剤を1本使い切るの……?

 さすがにそれはない、と私は思った。
 右へ左へと飛び回る1匹の蜂を見つめながら、どうしようかと考えあぐねる。

 やがて「1匹なら普通の殺虫剤で事足りるのでは」という結論に達し、屋内に戻って、蜂専用ではない一般的な殺虫スプレーを持って庭に再び出た。

 蜂は姿を消していた。

「………………」

 私は呆然と立ち尽くした。蜂はいない。どこにもいない。

「……まあいいか」

 汗が額をしたたり落ちる。暑い。
 私は汗を拭いつつ、拍子抜けした気持ちで自宅屋内に戻った。




 この「重装備で蜂を駆除しようと決意した」日以来、我が家で蜂を見かけることはなくなった。

 なんで蜂がやって来ていたのか、そしていなくなったのかは今でも分からない。冬が近づいてきたので季節的なものかも知れない。

 蜂が消えた本当の理由は分からないが、「臆病で虫嫌い」と思っていた自分にも、蜂を駆除しようとする勇気があったことだけは確認できた。

 次に蜂が現れた時は再び重装備で蜂に立ち向かい、今度こそ蜂を討ち取ってやると決意している。
 1匹でも5匹でもどんと来い。こちらには蜂スプレーがある。
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