【エッセイ】映画館に行ったらお祭り騒ぎになった話(ネタバレなし 約3000文字)

2023/03/26

エッセイ・感想

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2023年3月下旬、映画『シン・仮面ライダー』を夫と観に行くことになった。

私は仮面ライダーの知識はほとんどない。

なのでチケットを予約購入した後、私は初代テレビ版仮面ライダーや漫画版仮面ライダーの解説動画をYou Tubeで見て、仮面ライダーについての知識を軽く仕入れた。

その流れで、鑑賞予定日の前日に「シン・仮面ライダーは女性向けの映画ではない」とする動画をたまたま視聴した。その動画によると、シン・仮面ライダーには女性が不愉快に思うシーンが多数あるとのことだった。

動画ではどういうふうに不愉快になるのかという詳細は語られていなかった。ネタバレになるため、詳細は動画にできなかったのだろう。

私は不安になった。女性が見たら不愉快になるようなシーン……いったいどんなシーンだろう。

せっかく久しぶりに映画館で映画を観るのに、不愉快な思いをするのは嫌だな。

不安な気持ちを抱きつつ、私は鑑賞日当日を迎えた。





当日は起床予定時間よりも2時間も早く目が覚めた。早すぎるので二度寝しようとしたが眠れなかった。

私は「朝、予定より早くに目が覚めてしまう」ということは滅多にない。いつも時間ギリギリまでぐーぐーと眠りこける。

そんな私が2時間も早く目が覚めてしまったということは、「女性向けではない」という前情報によほどストレスを受けたということだろうか。

そんなまさかとは思ったが、この日は便秘にもなった。

私はストレスの影響が腸に出やすい体質である。
基本的に毎日快便なのだが、ちょっと環境が変化したり嫌なことがあったりするとすぐに便秘になってしまう。

ここしばらくは快便が続いていたから、この日の便秘はストレスによるものだと考えるのが自然に思えた。

そこまで「女性向けではないかも知れない」ことが不安なのか。私は我が事ながら呆れた。女性向けでなかったところで、2時間我慢して座っていればいいだけの話ではないか。

それに私はシン・仮面ライダーを鑑賞したくないわけではない。せっかく予習もしたし、ぜひ観ておきたい。

私は不調をスルーして身支度をし、鑑賞を心待ちにしていた夫と一緒に隣町の映画館へと向かった。





映画館に到着し、場内に入ると、大勢のおじさんたちが目に入った。
おじさん、おじさん、おじさん。どこを見てもおじさんばかりである。確認できた限り、女性の観客は私しかいなかった。

「うわー、やっぱり女性向けじゃないんじゃん?」

私はビビった。おじさんたちも「なんでここに女性が?」といった具合に私にジロリと一瞥をくれた……ような気がした。

それはさすがに自意識過剰かも知れないが、私は勝手に感じたおじさんたちの圧にすっかり押され、着席後、座席から動けなくなった。

上映寸前にトイレに行っておきたかったのに、緊張して座席を立つことがない。

まあ、家を出る直前にトイレを済ませておいたから大丈夫だろう。私はそう自分に言い聞かせ、楽観的に構えるよう努めた。

まもなくして、本編の上映が始まった。




映画が開幕してすぐスクリーンに映し出されたカーアクションに、私は一気に心を奪われた。この映画、面白いんじゃない? そんな期待でいっぱいになる。

You Tubeの解説動画が「女性向けではない」としたと思われるシーンもすぐに登場したが、そこまでキツイものではなかった。それに、そのシーンは短かった。

私は安心して鑑賞を続けた。スクリーンではかっこいいアクションシーンが次々と繰り広げられていく。

いや、この映画は面白いよ。

期待はやがて確信に変わった。本作は普通に、良質なエンタメ映画だ。自分がどんどん作品に引き込まれていくのが分かる。女性向けではないということも無さそうである。

私は安堵し、夢中でスクリーンを眺め続けた。

しかし、とある違和感により、私の意識はスクリーンから現実へと引きずり下ろされた。
尿意である。
まだ映画が始まってから30分ぐらいしか経っていない。

私は焦った。こんなに早くトイレに行きたくなるとは考えてもいなかった。
トイレに行くべきだろうか。でも観客全員、熱心に鑑賞しているのが雰囲気で伝わる。ちょっと席を立ちづらい。

私たち夫婦は場内のど真ん中の客席で鑑賞していた。この席から人が立ち上がったら目立ちそうだ。

それにトイレに行こうとしたら、一生懸命スクリーンを見つめている通路側の席のおじさんに足を退かしてもらって、おじさんの視界を遮りながら通路に出ないといけない。それはさすがに気が引ける。

私は尿意を「無かったこと」にしてやり過ごすことにした。素知らぬ顔で鑑賞を続ける。
その後、何度か尿意が沸き起こっては「気のせい、気のせい」と無視し続けた。

しかし上映開始から1時間ほど経った頃から、尿意は無視できないほど強くなった。

膀胱が激しく波打つ。トイレに行きたい。私は強く願った。

だがこの「シン・仮面ライダー」、ほとんどのシーンが「見せ場」である。
トイレに行けるような「休憩」のシーンが非常に少ない。そういうシーンが現れたと思ってもすぐに見せ場に移行する。

仮に「休憩」シーンが長かったとしても、前述のように座席の位置や通路側のおじさんの存在が気になりトイレに行けなかっただろう。

私は見せ場になるたびに「面白い! ライダーかっこいい!」と興奮し、休憩シーンになるたびに「この隙にトイレに行くべきか? でもこの雰囲気じゃ行けない。でもトイレ行きたい……あ、もう見せ場が始まった! 面白い! 席を立ちたくない!」と悶えるのを繰り返した。映画のストーリーが進むにつれて、私はすっかり情緒不安定になった。

尿意はどんどん増していき、「トイレに行きたい」という願望は、見せ場でも登場するようになる。

「トイレ行きたい! かっこいい! トイレ行きたい! かっこいい!」
上映開始から90分も経った頃には、私の脳内と膀胱は祭りのような騒ぎになっていた。楽しいんだか苦痛なんだか分からない。とにかくライダーがかっこいいし、私はトイレに行きたい。

「早く! 早くトイレへ! あっ、終わる!? この雰囲気、エンディングだよね!? ああ、そういう終わり方!? ははあ、なるほど!! なるほどね!! トイレ!! かっこいい!! トイレ!! なるほど!! トイレ!! 終わりだよね!? ……終わったー!! トイレー!!」

こうして上映開始から2時間後、私は2つの意味でクライマックスを迎えた。快楽と苦痛が目まぐるしく入れ替わる、混沌とした時間が終わったのである。




エンドロールが終わった後、私は余韻に浸っている夫の気分を害さぬよう、充分に時間を置いてから「ずっとトイレに行きたかった」と告げた。
「さっさと行ってこい」と呆れる夫の言葉を受け、そそくさと女子トイレに駆け込む。

トイレで限界まで溜め込んだ尿を放流すると、圧倒的な解放感と同時に「シン・仮面ライダー、面白かった!」という満足感が改めて沸き起こってきた。「もう一度、劇場で観たいな。そのぐらい面白かった」とも思った。

そして「次に観ることがあればいつでもトイレに行けるよう、必ず通路側の席に座ろう」と固く心に決めた。

トイレから出た頃には「シン・仮面ライダーは女性向けではないかも」という不安で体調を崩した記憶など木っ端微塵に吹き飛んでおり、私は何食わぬ顔で夫と感想を語り合いつつ帰路に着いたのである。

次は4DXで観ようかな。もちろん、今度はちゃんとトイレを済ませてから。

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